説明が少なすぎる: 「脳のなかの水分子」

水には注目しているのだが・・・

脳のなかの水分子
著者: 中田 力
ページ数: 174ページ
出版社: 紀伊國屋書店
発売日: 2006年8月

 先日買った本の中で、「脳のなかの水分子」を読んだ。自分も体内で7割を占める水の存在に漠然とですが、関心を持っていたから。タンパク質とリガンドの作る主要な相互作用は、水素結合であるしね。

 かなり期待して読み始めたのだが、理論が独りよがりすぎるような気がしてどんどん読む気がそがれていった。別にトンデモ理論だと思うつもりもないし、何の先入観も持たずに読みたいのだが、如何せん説明が少なすぎて、論理の飛躍が多すぎて、訳がわからないのが正直なところだった。

 帯にも書かれているのだが、ポーリングはキセノンが不活性ガスにもかかわらず(つまりふつうは他の物質と反応しない)、全身麻酔の作用を示すという事実から、全身麻酔薬が水のクラスター形成を安定化し、小さな結晶を作り出す。つまり、水分子と水分子が互いにくっつきやすい状態を作ることが、全身麻酔の分子機序なのだそうである。でも、私にはここまで読んでも水分子が互いにくっつきやすい状態と、全身麻酔との間に何の関連性も見いだせない。かなり大規模な論理飛躍があるようにしか思えないのである。

 作者はこの関連性について説明を加えずに、「自明」なこととして話を展開する。読んでいるとまるで、これが自明だと思えないのは頭がおかしいのではないか?といわんばかりの雰囲気を醸し出しながら。

 結局、この本を読んで、ポーリングが如何に偉大な科学者かはわかった気がするが、一番知りたい意識については何も書かれていないのである。