暗号解読 − ロゼッタストーンから量子暗号まで

暗号作成者と暗号解読者の戦いの歴史

暗号解読 − ロゼッタストーンから量子暗号まで
著者: Simon Singh
ページ数: 509ページ
出版社: 新潮社
発売日: 2001年7月31日

 暗号は気づかないところで、大きな役割を果たしています。Amazonで何のためらいもなしに(財布のためらいはあるものの)、クレジットカードで本を買うことができるのも、この暗号のおかげです。この本は、様々な暗号に関する仕組みと、その作成者と解読者の死闘の歴史について、記されています。

 物語はイギリス女王エリザベスの暗殺を了承したスコットランド女王メアリーの裁判から始まります。メアリーは暗殺の了承を暗号によって記しました。その裁判では、メアリーの生死はその暗号が解読されたのか、されなかったのかということによって、左右されたのです。

 このように、暗号は時として歴史をも大きく左右する影の支配者でありました。

解読の鍵は「頻度」

 古くから一番使われていたのは、単純なアルファベットを他のアルファベットに変える単アルファベット式のものでした。たとえば

A → Z, B → Y

のようにアルファベット1つを他のアルファベット1つに対応させていきます。このような単純な方式でも長い間解読をされなかったのですが、イスラムの言語学者らがあることに気づきました。

解読の鍵はアルファベットの出現頻度

アルファベットの文字はどれも同じ割合で使われるわけではありません。英語ではeが一番多く、zはほとんど無い。それを利用すれば、置き換えられた、つまり暗号化されたアルファベットがどれであるのか推定できるということになります。

世界最強の暗号化装置であったエニグマを解読したのは「恐怖」という心理

 第2次世界大戦中ドイツが誇った世界最強の暗号化装置、エニグマ。映画にまでなっています。

エニグマ
出演: ダグレイ・スコット, ケイト・ウィンスレット, サフロン・バロウズ, ジェレミー・ノーザム
監督: マイケル・アプテッド
製作者: ローン・マイケルズ, ミック・ジャガー
形式: Color, Widescreen, Dolby, DTS Stereo
言語 英語, 日本語
画面サイズ: 2.35:1
販売元: 松竹
発売日: 2003/10/25
時間: 119 分

 この映画の暗号解読者はイギリス人のようですが、もっとも最初にエニグマの暗号を解読したのは、ドイツのお隣であるポーランドの数学者でした。ポーランドはいつドイツに侵攻されるともわからない恐怖により、他国が不可能だとして投げ出した解読を執念深くやってのけたのでした。恐怖という心理は時に人間に不可能を可能にさせます。

 最近ではエニグマのシミュレータなんていうのもネット上に公開されて、話題になったようです。

Enigma

古代文字の解読もまたある意味で暗号である

 この本の副題、「ロゼッタストーンから量子暗号まで」の「ロゼッタストーン」というのはいうまでもなく、エジプトのヒエログリフとその民衆語デモティック、そしてギリシア文字が書いてあるものです。

ロゼッタ・ストーン(Wikipedia)

解読の鍵はトマス・ヤングがその当時では有力だった、ヒエログリフが表意文字だという説を採らずに、アルファベットのような表音文字だと解釈したところに突破口があり、これをフランソワ・シャンポリオンがさらに研究を進めたことによります。

 このことは時として、先入観が重要なことを見逃したり、ねじ曲げたりして真実に到達できないという重要な示唆を含んでいます。

感想

 陳腐な言葉で書けば、歴史を爽快に駆け抜けさせてくれる名著だと思います。★をひとつ外したのは、なかなか理解しにくい仕組みをもう少し絵を用いて明快に解説してくれたらなぁという希望です。ただ単に自分の理解力がないだけなのかもしれませんが。

評価:★★★★(5つ中)