「愛に生きる — 才能は生まれつきではない」を読みました。

愛に生きる — 才能は生まれつきではない
著者: 鈴木鎮一
出版社: 講談社
発売日: 1966年8月

実は読んだのはだいぶ前なのですが、ずいぶんとブログに載せるのに時間がかかりました。

著者は様々な「天才的」なヴァイオリニストを育てた鈴木鎮一。
本書は、どのようにしてそのような世間一般が「天才的」と呼ばれる人々を育てたのか?について記述されています。

なぜ、わざわざ「天才的」とカギ括弧付きにしているのかというと、この本でも書かれているようにそこに本質的なことはないからです。
著者はよい能力が身につくというのは、よい環境やよい育て方次第であるとし、前書きにこんなことを書いています。

愛に生きる — 才能は生まれつきではない」より抜粋

わたしが二十年来やっている才能教育運動も、外国では正しく受け取られているのに、日本国内では、いまだに一種の天才教育として評価されています。しかし、この本を読んでいただければ、そうではないということが、すぐにおわかりいただけると思います。好ましくないひとに育ったのは、好ましくない育てられ方をしたのだ、できないひとになったのは、できないひとに育てられたのだ、ということも納得していただけると信じてます。

鈴木鎮一 『愛に生きる — 才能は生まれつきではない』

作者はどのようにして才能を育てる方法の根幹について気がついたか?

さて、冒頭、著者がどのようにしてよく育てられる方法について気がついたのか?それは、日本人の皆が日本語を話しているということに気がついたときでした。
難しい言葉が使えるか否かということは抜きにして、日本で育っているならばほとんど皆日本語で不便なく会話が出来ます。

さらに大阪で育ったなら、大阪弁。
広島なら、広島弁。
津軽なら、津軽弁。
と、その土地土地に応じた言葉を自然に身につけていくのです。

ではなぜ、そのようにして言葉を習得できるのか?ということが問題になります。

この問題に対して筆者はセキセイインコに言葉を覚えさせることから考えてゆきます。
筆者の友人がセキセイインコに言葉を覚えさせたときのこと。
まず、ピーコという名前を覚えさせました。
そのために、ピーコという言葉を毎日50回約2ヶ月で3,000回ほど繰り返し聞かせました。
するとピーコというようになったそうです。

今度はミヤザワという名字を覚えさせます。
おもしろいのはここですが、それにはたった200回でよかったそうです。 

この二つの事項に能力開発の本質が隠されています。

  • 繰り返し、繰り返し、繰り返すこと。
  • 初めは習得するのが遅いが、習得したことにより加速度的に、指数関数的に能力が増加する。

どうやって教え方を考えるか?

一つ気になることがあります。
この本では筆者が考えた教え方がいくつか出てきます、例えば指が動かないと訴える子どもに対して、最初はゆっくり練習し、少しずつ速く指を動かすようにして生きなさいと教えます。
ヴァイオリンだけではなく、工場の生産性が悪いというときに、工員の方にピンポンをやらせることで頭の回転が速くなり、生産性がアップするのではないかと助言をしてみたり。

気になるのは、このようなオリジナルな教え方はどこからどう考えてわいてきたのか?という点です。
その哲学がわからないと、筆者のいう「正しい努力」というものが行えません。 

ある程度、想像は付きます。
脳は急に何かができるようになる訳ではありません。
指を動かしたり、生産性をアップするためには脳の回転速度が重要です。
だから、成功体験を積み重ね、それを少しずつアップさせるような練習をさせるということです。

このように色々な教え方が出てくるのは、常日頃教え方について考えていたからでしょうか?
もっと脳の仕組みについて知って、ここら辺を考えたいと思います。 

この本には能力、そしてそれをどう伸ばすかについて興味深いことが本当に色々と書かれています。
ヴァイオリンだけではなく、記憶力、そして遊ぶことなど。
それでも、筆者は鉄則である繰り返すということ、その一点を大切にして応用していることがわかります。

最後にこの本の核となるところをいくつか引用して終わることにしましょう。1

愛に生きる — 才能は生まれつきではない」より抜粋

どの子も育つものであり、それは育て方ひとつにかかっている。だれでも自分を育てることができ、そしてそれは正しい努力ひとつにかかっている。

鈴木鎮一 『愛に生きる — 才能は生まれつきではない』
愛に生きる — 才能は生まれつきではない」より抜粋

自分の能力の育ちについても迷信的であってはなりません。まして、才能の有無に藉口して、自分の努力を放棄するなど、ただ卑怯だというほかありません。

鈴木鎮一 『愛に生きる — 才能は生まれつきではない』
愛に生きる — 才能は生まれつきではない」より抜粋

なにごとにもあれ、道をひらくということは、新しい能力をつくることです。行動が伴わなければ、なにを思い、なにを反省しても、なにもならない。ですから、行動する、実行する能力を作る—このことをわたしたちは忘れてはならないのです。

くり返しくり返すことによってなにごとも身につく、能力となる。この鉄則をここでも生かし、どんな小さいことでも、気づいたことはすぐ実行に移す。自分をむち打ちむち打ち、へこたれないでやり抜く。—これが身につき習慣になれば、わたしたちは、不可能と考えられたことも可能になり、閉ざされた道もひらけてくることを、わたしはいろいろなばあいに発見します。

“やればできる”といういい古されたことばを、単なることばととってはいけないし、ひとごとだと思ってもいけない。すべてのひとに、それはあてはまる事実なのです。

鈴木鎮一 『愛に生きる — 才能は生まれつきではない』
  1. その時歴史が動いた」風。あの音楽を脳内で再生してください。 []