「iPodは何を変えたのか?」を読みました

iPodは何を変えたのか?
著者: Steven Levy
出版社: ソフトバンク クリエイティブ
ページ数: 368ページ
発売日: 2007年3月29日

この本はiPodが産まれたことで、世界の何が変わったのか?ということに焦点を当てた本である。
ただ、それだけではなくどのようにしてiPodが産み出されたのか?ということについても普段聞くことのできないSteve JobsやJonathan Iveなどの開発者自身が何を考えて作ったのか?ということも書かれている本である。

その前者、すなわち世界がどう変ったのか?ということに関してはだいぶん提灯ぎみ、誇張しているように見えるが、これは日本とアメリカの違いなのかもしれないので、なんとも言えない。
たぶん、それだけしかこの本に書かれていなかったなら、自分がこの本をいちおう最後まで読みとおすことはなかったと思う。

大事なのは後者の部分である。
Appleがどのようにして物作りをしているかということを改めて再確認できる。

それは、Appleが製品を出す際には、どれだけヴィジョンや哲学を第一にして作っているかということである。
この製品はどうあるべきか?ということが第一にあって、そこから細部が決められていく。
そのヴィジョンがあるからこそ、今まで常識的には考えられなかった物が産みだされていく。

その一つが本書でも触れられている電源ボタンの必要性。
普通に考えれば、電源ボタンを用意することは「当たり前」 だと思われるが、iPodはそれをなくし自動的に段階的にスリープしてくように設計されている。
このような考えは、ヴィジョンに照らし合わせて本当に必要か否かを考えなければできないし、これが彼らの考えるデザインそのものであるように見える。
ヴィジョンという曖昧模糊とした問題に対して、その問題の本質とは何か?と考え、それを解決する答えを導き出す、それがデザインになっている。
なんだか以前、フジテレビで「ニューデザインパラダイス」の冒頭で、谷原章介があるものが産まれた過程について話し「これがデザインです」と言っていたのを思いだす。

Steve Jobs自身もこのことについて本書で、こう語っている。

iPodは何を変えたのか?」より引用

果物だから、リンゴ。このシンプルさこそが究極の洗練なんだ。僕らがこの社名で表現したいのは、こういうことさ。人が最初に問題にぶち当ったときには、単純な方法で簡単に解決できるように見える。それは、まだ問題の複雑さを理解していないからだ。でも解決策が単純すぎたら、それはうまくいかない。そうしていったん問題の細部に足を踏み入れると、そこではたくさんの問題が複雑に入り組んでいることがわかってくる。込み入った問題のそれぞれに、手の込んだ解決策を考え出さなきゃならなくなるわけだ。たいていの人はこの段階で止まってしまう。確かにこういう方法でもその場しのぎはできるからね。でも、本当に優秀な人材はそこに留まらずに、問題の背後にある本質を見つけ出す。そして、美しくて簡潔明瞭で、しかも見事に機能する解決策を思いつくんだよ

Steven Levy 『iPodは何を変えたのか?』

そして、彼らはこの問題解決を、他の企業ではありえないほど狂信的におこなう。
「常に狂信的に拘り続け、問題を解き明かそうとすること」、それが世界で最も革新的でSexyな物を産み出す原動力になり他社が追いつけない理由にもなっているのだ。