「わたしを離さないで」を読みました

感想をどう書いていいのかさっぱりわかりません。
まだ感想を書ける状況にあるのかどうかもわかりません。

わたしを離さないで
著者: カズオ・イシグロ
ページ数: 450ページ
出版社: 早川書房
発売日: 2008年8月

数年前に単行本が出たときに読んでみたいなと思っていましたが、たまたま文庫本になっていたのを知り衝動買いをしました。

わたし、ルーシー、 トミーの3人が全寮制施設、ヘールシャムで織りなすどこにでもありそうな、たわいもない日常。
たとえ子どもであっても、本当は思っていることの正反対のことを言い、時にはけんかもし、人間関係に悩む。
その心の動きがわたし視点で丁寧に描かれる。

でも、この小説はそれだけではない。
冒頭から読者を惑わせる奇妙な違和感。

わたしは「介護人」であり「提供者」の介護をする。
しかし冒頭ではそれしか、「提供者」とはいったい何なのかわからない。
それがどういうことなのか?というのは抑制された筆遣いでゆっくりと明らかにされていく。

こんな誰にでもかけるようなことを書いて(このブログのエントリのこと)、でもその先が続かない。

たぶん言葉が続かないのは、あまりにも「ありそうだから」ではないかと思う。
ありそうとかいたのは、この(今の時点で見ると)奇怪な設定ではなく、上に書いた思っていることとは人間関係に悩む(もちろんそれだけではない)というような人間心理のこと。

「なさそうなこと」であるのであれば、いくらでも説明的に書いたりすることができるのではないだろうか?
逆に「ありそうなこと」というのは、その人間の内面に肉薄するがゆえ、言葉にならない、言葉にしにくいのではないだろうか。

優れた物語というものは、フィクションであるのにもかかわらず、それがフィクションでないような、そういうような感覚をもたらすのだと思う。
この小説はフィクションであって、きわめて現実に肉薄している、だから苦しい、そんな風に思える。

読み終わった後、何とも言えない感情の余韻におそわれて、心にこびりつきそうな、そんな感じがした。