よしもとばなな「彼女について」を読みました

よしもとばななさんの新刊、「彼女について」を読みました。

ふとした瞬間に、どこかで新刊が出たことを知り、たぶんAmazon.co.jpかどこかの内容紹介を読んで、無性に読みたくなったのでした。

彼女について
著者: よしもとばなな
出版社: 文藝春秋
発売日: 2008年11月13日

せっかくだから、内容紹介のところを引用してみましょう。

由美子は、幼なじみのいとこ昇一とともに失われた過去を探す旅に出た。この世を柔らかくあたたかく包む魔法を描く書き下ろし長篇。

幸せの魔女が、復讐の旅にでた。どこまでも暗く、哀しみに満ちた世界を最後に救ったものとは―大きな愛に包まれる、ばななワールドの新境地。

一気に読んだ。
最後の方は祈るような気持ちで。
でもどうしようもなくって、切なくて悲しかった。
外で読んでいたのだけれど、涙があふれそうになった。
でもね、優しい気持ちにもとってもなれる。

読み終えたあと、余韻がぐつぐつ、どろどろと心の中を漂っていて、しばらく心そこにあらずという感じがした。
色々な未分化な感情が、ざらざらと金平糖みたいに混ざっていた。
今でもきゅーんとする。
とてもすばらしい小説だと思う。

あらすじは内容紹介のところで書かれているので十分かな?
とある悲しい事件で、失われてしまった主人公由美子の過去。
それを久しぶりに現れたいとこの昇一とともに一緒にたどり、二人手を取りながら、向き合うことで次第に過去が癒されていく。

心理療法でもそうみたいだけれども、本当に癒すというのは起こったことにきちんと向き合って、壮絶な感情を体験しつつも、心の中で意味づけ、物語にしていって、受け容れていく作業。
だから、とっても苦しい。

苦しいから、一人ではなかなかできなくて、たいていの場合こんな風に一緒にたどってくれる人が人には必要みたい。
一人じゃないと思えるから、向き合っていこうかなと思うのかも。

そして癒されるのは由美子だけではなく、一緒に旅をすることを決めた、昇一も。

途中にある

君の幸せだけが、君に起きたいろんなことに対する復讐なんだ。

よしもとばなな 『彼女について』

という言葉が真理を伝えていつつも、とっても優しい。
昔このことを自分が知ったときは、パウロさながら目から鱗が落ちた。
それをこんな風に小説に載っけてしまうのがすてきだと思う。

この小説を読んでいると、ばななさんがばななさん自身を癒そうとしているのかもしれないって思う。
この言葉も、彼女の中のもう一人の彼女に必死に言っているように聞こえる。

ばななワールドの新境地と書いてあるけれども、それは嘘で、彼女はいつも同じことしか書いていない。
それは悪い意味ではなくて、普遍的な神話としての意味では同じ話というだけ。
何回も書く必要があるんだと思う。